第172章

「他人……ですか?」

――まさか。

酒井正志は、いかにも気まぐれなふりをして視線をリングへ落とした。帝都へ戻ってからというもの、彼は国賓のカルロス王子という肩書で「一念寺」に滞在している。

「一念寺」は地下の闇ボクシングだけじゃない。ダンスホール、カジノ、闘技場、競売場……手を広げる範囲に際限がない。

帝都は魑魅魍魎の巣だ。だが「一念寺」の本当の持ち主が誰なのか、知っている者はいない。分かっているのは――ここが、金と権力を持つ連中だけが足を踏み入れられる、貴重なグレーゾーンだということ。そして、決して表に出せない場所だということ。

だからこそ、今年の国際地下ボクシング大会の会場に選...

ログインして続きを読む